炭酸ガスと、水と、カルシウム。/骨は珊瑚、眼は真珠

旅の供、短編集「骨は珊瑚、眼は真珠」。

池澤夏樹さん。再読。

読みながら思った。

これを前に、最後に読んだのは何年前だ?

近づいている、と思った。

前に読んだときより、何年前かより確実に、近づいている。近付きたいと望む自分がいる。

死者の視点か、妄想か、走馬灯か。

ここまで澄んだ視点で、世界を見ることができるのか?

短編集を通してこれは「所有」「共有」の物語だと解釈していたと思う。それができないことへの、感情の物語たち。

巻末の解説にあった「寂しさ」という言葉はしっくりきた。そう、それは悪でも罪でもない。ただ、寂しいのだ。

表題「骨は珊瑚、眼は真珠」。死して彼は彼女を思い、生きる彼女は彼を思い。二人以外には無意味な儀式を挟んで、寂しさは向かい合う。

生きることは、人として生きることは、寂しいのだ。

それは冷たさではない。海に消えていく想い、それを見守る思いは、ただ暖かく、ただ寂しいのだ。