しかし、これはアンフェアだ。/北への旅

短編集「骨は珊瑚、眼は真珠」から、もうひとつ。短編「北への旅」。

記憶していたのは大筋だけだった。終末的、厭世的、諦観、そういう物語として記憶していた。しかし。

彼は烈しい感情を持つ一人の人間として、きちりと描かれていた。彼とともに、北への旅をする。

人として生き物として生き続けることと、自分が思い描く自分として生きることが対立してしまうなら、どちらか選ぶしかないとするなら。

どちらを選んでも絶望が訪れることが、それを運んでくるのがただ自分の心だと、理解する日が来てしまうのなら。

まさに、これはアンフェアだ。こんな逃げ場のない闘いが許されるのか。

静かな、静かすぎる絶望の物語。記憶よりも解像度を増して、雪が降り積もる。彼も私も、終着点には辿り着けないのだ。

北への旅は、まだ終わっていなかった。